何事も無かったかのように

 ベランダには、電気コードで作った首吊り用の輪がぶら下がっている。台の代わりにした本の山もそのままだ。部屋には、声を漏らさないように口元に貼ったガムテーブが転がっている。
 レキソタンロヒプノールを噛み砕き、ベランダに立ち尽くしていた昨夜。衝動的ではあったけど、とても落ち着いていて、死に向かう気持ちは純粋だった。それなのに、結局、最後の一歩を踏み出すことはできなかった。生きることも、死ぬことも、たいして変わりなんて無いはずなのに。結局、飛び立つことはできなかった。やっぱり、怖かったのかな。
 少しは気が晴れただろうか。