永遠の少年

 「ふつう、このような人間は社会への適応が非常に困難であり、ある種の誤った個人主義を抱いている場合もある。つまり、自分はどこか特別なのだから社会に適応する必要はない、隠れた才能の持ち主には適応などありえないというわけである。加えて、他人に対する横柄な態度もみられるがこれは劣等感とまちがった優越感からきている。この主の男性はまた、自分に合った職業を見つけるのが非常に難しい。どんな職に就いても、決して願ったり適ったりの職とは思えない」
 特別でいられないなら、「ふつう」「平凡」でいることよりむしろ「ダメ」を選ぶ、ということだ。

 「おとな」になることは、やはり“飛翔”ではなくて“下降”なのだ。しかし、その“下降”は本当は敗北でもなければ恥でもない。逆に、「僕だけはけがれない存在さ」と現実を見ることを避けて孤独のうちにとどまり続けると、知らないうちに自尊感情は目減りして行き、他者に対して配慮や思いやりを持つ余裕や寛大さも失われていく。

出典:「悩み」の正体 (岩波新書)