終わりの始まり

 今日は帰社日*1ドグマチールを1錠、レキソタンを2錠を服用して会社に向かった。不安が顔に出る不安を抑えきれずに、会社の最寄り駅に着いた所で、更にレキソタンを1錠追加した。たぶん、今日が一般社員の方々の前に顔を出す最後の日になるだろうと思いながら。退職手続のため最終日には本社に赴くことになるだろう。だけど、そこには社長と総務部以外の方はいないはずだ。
 ということで、僕は社員の方々を前にして退職の挨拶をした。「夢を追いかけるために退職する」という偽りの自分を演じながら。下手な芝居だったけど、演じ切れたと思う。それが今日の僕の仕事だったのだ。
 今の会社に転職して、半年とちょっと。短かったかな。でも、耐えられなかったのだから仕方ない。と思うしかない。いまの僕は、この結果を素直に受け止めるしかないのだ。ただ、退職するという行為が、職場から人が抜けるという事態を発生させ、会社に対して迷惑をかけたことだけは事実で、それに見合うだけのものを提供することなど、僕にはできるわけもなかった。僕が退職することによって、会社の信頼を落とすようなことがあってはならないのだけど、大丈夫だったろうか。大丈夫な訳が無いか・・・。代替要員を探して、補充しなければならないのだから。それに要する時間だけでも十分なコストになるはずだ。僕は社会人失格だ。
 ミーティングが終わると、僕は誰かと雑談をすることもなく、直ぐに会社を後にした。帰り道、横断歩道の手前で信号が青に変わるのを待ちながら、なんだか心が痛む自分に気付いた。
 そう、心が痛む気がするのだ。上司も、社長も、会社も嫌いなわけじゃない。ダメなわけでもない。どちらかといえば、いい方だと思う。なにも文句を言えない程に、十分良い環境だったと思うのだ。だから、結局、個人的な問題へと帰結してしまう。環境が悪かったのならば、環境を変えればいい。それだけのことだ。「環境が悪かったからだ」と、悪態をつくことだってできるさ。でも、そうじゃないような気がする。ただ、僕が上手くできなかったからなのだ。働くということを。

*1:職場は基本的に客先常駐である。そのため、社員全員が自社に集合する日のことを「帰社日」という。