エーテル

「そもそも生きているというのは悲しい事件でしょ?人間にとって最大の心の傷は、存在」

こんな風にしてリリイはファンによる抗議の自殺事件も、渋谷キャトルでの殺人事件も、みずからの宝石(ジュエル)に変えて行く。彼女の特異性は音楽よりもむしろこの思考回路にある。しかしファンにとってはその言葉が、エーテルの魔力が何とも心地よいらしいのだ。新作「グライド」の中でリリイは「I wanna be」を繰り返す。音になりたい。空になりたい。とおくへ行きたい。・・・・なにかまた感化された若者がひとり遠くへ逝ってしまいそうで不安なのだが。

エーテルを駆けめぐるイメージの速度は光さえも凌駕するの。私たちが何処へゆくのかはエーテルの気分次第。何のために生まれて来たのかと悩む人がいる。理由はないの。歌がある。理由はない。ただ歌がある。エーテルのうねりの中に。だからあたしは歌うしかない。歌ってるあいだだけが幸福。いえ、幸福なんてものも存在しない。ただエーテルがこの世界を満たしているだけ」

これが彼女の答え。その意味不明な言葉の羅列にひょっとしたら宇宙の真理が隠されているのかも知れない。なにも意味がないのかも知れない。それを解読するのはリリイ信者ひとりひとりの手に委ねられる。ある雑誌はリリイ・シュシュを並みのカルト教より危険だと評した。彼女の歌や言葉には混沌と絶望しかないからだという。果たして青いエーテルを飛ぶグライダーはファンたちを何処へ連れて行こうとしているのだろう。

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